真夜中にトラック内に放置される

私が小学生の頃、母にトラックの長距離ドライバーの恋人ができた。

ある日、母は私と弟に「小旅行に連れて行ってやる」と言った。

私と弟は少し嬉しかった。

トラックで迎えに来た男の人の顔は憶えていない。

ただ、男の人がトラックの荷台のドアを開けて、中に入っていた沢山の魚を見せてくれた時、カチカチに凍った大量の魚たちが怖かったことは憶えている。母は面白がっていたが、私と弟は怖かった。凍った魚の眼は私たちを恨んでいるように見えた。

トラックの運転席と助手席の間は広くて、私と弟の小さな身体はすっぽり入った。

弟は少し怖がっていたので、手を繋いであげた。

車外の景色はだんだん暗くなっていった。

そして真っ暗になると、男の人はどこかにトラックを止めた。

母は私と弟に、「お母さんと〇〇さんは少し出かけてくるから、お前と弟は大人しく車の中にいなさい」と言って、男の人と一緒にいなくなってしまった。

たぶん2時間以上経った頃、弟が怯えだした。

「ねぇちゃん、お母さんはどこ行ったと? もう帰ってこんと? 俺怖え」

弟は泣き出しそうになっていた。

私も不安で怖くてしかたなかったけど、弟を怖がらせたくなかったので、いつものように嘘をついた。

「お母さんは、私たちに美味しい食べ物を買いに行ったから、いま探しちょると思う。やっくんの好きな食べ物を買おうと思って一生懸命になっちょると思うから、心配せんでいいよ」

そういう内容のことを話した記憶がある。

弟は、たぶん「うん」とだけ言って黙った。

2人で真っ暗なトラックの車内で、身体を硬くしてジッと待った。

数時間後、母と男の人は帰ってきた。

楽しそうにしていた。

私も、たぶん弟も、母を傷つけるのが怖かった。

辛くても、不安でも、怖くても、普通にしていれば母を傷つけなくてすむ。

それだけは子供心に分かっていた。

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