日本中国伝統功夫研究会

北京市内へお出かけ

 2004年10月下旬、中国へ渡って約1か月後。

 秀茜先生の混元太極剣の授業が一旦終了した私は、通っていた『北京・志強武館』と歩いてわずか30秒程しか離れていない旅館との往復の日々に、(贅沢にも)ストレスを感じ始めていたので、外出禁止の言いつけ水を求めて市内を彷徨う」を参照)を破って、武館の敷地内にある按摩学校の生徒にお願いをして、北京市内へ観光に出かけました。

「你想去哪玩儿?」(どこに遊びに行きたいの?)

と友人に聞かれた私は、すぐに

「我想去书店!」(本屋さんに行きたい!)

と答えました。

 さっそく市内バスに乗って、北京で有名なショッピング街の王府井(わんふーちん) にたどり着くと、社会からドロップアウトして2年ぶりに感じた華やかな雰囲気に心が弾み、嬉しくて嬉しくて踊り出しそうになりました。

横山春光の中国武術留学記「北京市内へお出かけ」王府井

 (普通だ、普通の生活がここにある! 普通の世界に戻ってこれたぞ~)

 まだまだ「普通の状態」からは程遠かったかもしれませんが、そのときの私は心底そう感じました。

 ウキウキしながら王府井で一番大きな書店である『新華書店』にたどり着くと、友人に薦められて、まずは児童書コーナーに行ってみることにしました。

 しかし、児童向けの『水滸伝』や『西遊記』などの本は、当時の私にはまだ難しく、とても読めそうにありませんでした。

 もう少し簡単な中国語の本はないかと、次に絵本のコーナーを見てみると『100万回生きたねこ』という絵本を見つけました。

(絵本ならなんとか理解できそうだ)

と思った私は、友人に中国語の解説をしてもらいながら、読んでみることにしました。

 この『100万回生きたねこ』という絵本は、日本人の佐野洋子さんの作品で、かなり有名な絵本だということは後から知ったのですが、このとき私は初めて読んだので、お話しのラストで感極まってしまい「グスグス」と泣き出してしまいました。

 隣で一生懸命に解説をしてくれていた友人は、泣き出した私の様子を見て大変驚いて、

 「别哭,别哭,哭了对身体不好!」
 (泣かないで、泣かないで、泣くと体に悪い!)

と言って、慌てて私を本屋から連れ出しました。

 私はもう少し絵本の中のねこの気持ちに浸っていたかったのですが、友人に急き立てたれたので、王府井からまたバスに乗り、今度は天安門広場の西側にある『人民大会堂』へ向かいました。

横山春光の中国武術留学記「北京市内へお出かけ」糖葫蘆

 途中で友人から、「糖葫蘆」(タンフールゥ)という山査子(サンザシ)版のりんご飴のような中国伝統のお菓子と、中国の国旗の小旗を買い与えられ、初めて食べる甘くて酸っぱい糖葫蘆の味の物珍しさと、可愛い旗と記念写真を撮ったことで、私はすっかり気分が良くなりました。

 その姿を見た友人は安心したのか、任務終了とばかりに「さぁ、外は空気が悪くて、体に良くないから、早く旅館に帰って休んだほうがいい」と言って、まだ午後の2時だというのに、バスに乗って旅館に戻ることになりました。

 つかの間の気分転換でリフレッシュできた私は、着替えを済ませ、のんびり休憩しようとベッドに横になると、

 「ガン、ガン、ガン、ガン! ホンシャン(横山)! ザイマ?(いるの?)」

という、けたたましいノックの音と呼び声が聞こえてきました。

 驚いてベッドから飛び起きて、慌ててジャージに着替え直しドアを開けると、そこには『北京・志強武館』の事務員の女性が、目を輝かせて立っており、

 「陳項(チェン シィアン)老師が武館に来たよ! 急いで武館に来て!」

と言って、早足で武館へ戻って行きました。

 何ごとかと思い、急いで武館へ向かうと、館内には西日が差し込んでいるだけで、誰もいません。

 (おかしいな…、私、また中国語を聞き間違えたのかなぁ?)

と、キョロキョロしていると、外から話し声が聞こえてきました。

 すると、ドアが開き、強面で熊のような歩き方の男性と、そのお弟子さんのような男性2人が武館へ入ってきました。

 この「強面で熊のような歩き方の老師」が、後に私に初めて「天人合一」の境地を体感させてくださった、陳式心意混元太極拳 第2代継承者であり、創始者である馮志強(ひょう しきょう)老師の得意弟子でもあった、陳項(チェン シャン)老師だったのです。

 -後日談-
 強面だと感じたのは、実際には陳項老師のご尊顔ではなく、中国伝統武術家に漂っている独特の雰囲気でした。

 つづく

中国武術留学記

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