日本中国伝統功夫研究会

私たちの会は八卦掌の鍛錬を通じ「天人合一」の境地を学ぶ会です

陳式心意混元太極剣の試験

 「一ヶ月後にみんなを集めて剣の試験をしますから。」と秀茜先生に言われてちょうど一ヶ月が経った頃、いつものように私が武館で太極拳の練習をしていると、事務所から出てこられた秀茜先生は私を見つけ「明日の午後5時に授業が終わった後、剣の試験をしますから、準備しておくように。」と簡潔におっしゃって帰って行かれました。

 い、い、いよいよ試験の日が来てしまった、と直ちに緊張をし始めた私は、「剣の試験って一体どんな事を試験されるのだろう?」と根本的な意図がよくわかっていないまま、翌日の試験の為、疲れを吹き飛ばす様に最後の復習にとりかかりました。

 その一ヶ月、私はただ一つだけ、秀茜先生に授業中何度も指導された事を心に置いて練習をしていました。「もっと緩急をつけて!剣は拳ではないの、剣は剣なの!眠たくなるような剣ではいっそのこと捨ててしまいなさい!」私はその言葉を胸に置いて、毎日のように剣を持って「剣と拳の違い」を知ろうと一生懸命練習していたのです。

 当時、まだ体力的にとても弱かった私は、長い長い混元太極剣の套路を最初から最後まで通して練習するだけでも、かなり疲れていました。でも頑張って集中して何度も繰り返し練習を重ねていると、不思議とある時点から体が自由になる感覚を覚えるのです。

 それは“ランナーズハイ”のような強烈な刺激の後に訪れるものではなく、何気ない円の動きを行った時に、ふっと「私は自由だ」と気がつくような、自然な感覚でした。

 しかし「練功によって生じる感覚を追いかけてはいけない。」と普段の授業中に陳項老師に繰り返し諭され続けていた私は、その「感覚」を特に気にしないようにし、秀茜先生に言われた事を実現するために自分なりに考えた、上半身がリラックスする為の脚力アップや、剣の勁が途切れないようにスムーズに動く事に重点を置いて、練習に取り組んでいました。

 翌日、いよいよ試験の時間が近づいてくると、武館には先の王君をはじめ、武館と同じ敷地内に有る按摩学校の生徒達が集まって来ました。中には馮志強老師のお孫さんまで訪れていて、「これは私は相当緊張するかなぁ?」と心配したのですが、秀茜先生が武館に入ってこられ、何の前置きも無く試験が始まると、意外にも私はまったく緊張しませんでした。

 とにかく、私はその一ヶ月間、一生懸命練習したのです。上達していようが、していまいが、それ以上でもないし、それ以下でもないのです。今できることは全てやったのです。

 太極剣の円運動のせいなのか、私の心境のせいなのか、その両方のせいなのか、清々しい気分で混元太極剣48式の套路を無事終えると、秀茜先生は大きな拍手をして下さり、「もう一回やったら今の本当の実力が出せたわね!でもこれで十分、これからもこの調子で頑張って精進しなさい!」と言って肩を組んで激励して下さり、一頻り見ていた生徒達に「横山は一ヶ月でここまでやったのよ!」と言って、意気揚々と帰って行かれました。

 中国北京へ渡って初めて、太極の門へ向かう長い長い階段を一段だけ上がれたような気がした私は「色々大変だったけど、やっぱり来て良かったなぁ。」と嬉しくなり、その日だけは明るい気持ちで、一人ぼっちの食堂での夕食も楽しく食べることができました。

愚痴を聞き流す白猫ちゃん  - 友人紹介 -
 食堂の近くに時々姿を見せる白猫ちゃんがいました。中国語で猫はマオ(mao)と言います。一般に呼びかける時は、猫咪(マオミー)か、子猫の場合、小猫儿(シャオ マオ)といいます。
 この食堂に現れる白猫ちゃんは大人しくて、いつも私の愚痴や弱音を聞き流してくれました。憶えたての新しい中国語の練習相手をしてくれるのも、いつもこの白猫ちゃんでした。

つづく

ニーハオ、北京!

一度目の帰国

再び北京へ

二度目の帰国

太極拳発祥の地 -河南省-

三度目の帰国

太極拳発祥の地 -河南省-

八卦掌への道

八度目の帰国

八卦掌への道(中盤)

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