日本中国伝統功夫研究会

私たちの会は八卦掌の鍛錬を通じ「天人合一」の境地を学ぶ会です

初めての国際太極拳合宿

 河南省に到着して二日目の朝、高熱を出していた私は、まず洗面所へ行って自分の顔を見てみると、明らかに脱水症状の姿でした。まぶたが落ち窪んで、目がうまく開きません。しかし、長期留学ビザ取得の為に河南中医学院の入学手続きが終わるまでは、何としても病気になった事を隠さなければなりません。

 万が一、病気が原因で今年の入学が流れてしまった場合、次のチャンスは一年後となってしまうのです。高熱と脱水症状の中、毎日一度は食事に誘ってくれる通訳の裴さん一家にバレないように、私は全身全霊のパワーを使用して平常を装いました。

 高熱を出しながらも食べなければならない中国北部の河南省独特の、塩プラス唐辛子たっぷりの料理は、脱水症状を更に悪化させ、高熱はなかなか引かず、正直言って、死ぬかと思いました。しかし死んでもいいから日本に帰りたくなかったのです、太極拳を学びたかったのです。

 “気合”という二文字だけで、原因不明の高熱をやり過ごした私は、無事ぼろアパートに引越し、安い竹製のベッドと、穴が開きそうな底の薄い鍋を購入し、お粥を作り静養し、8月になる頃には、三途の川の淵から、なんとか現世まで戻って来る事ができました。

 河南中医学院の入学手続きも無事に終え、体調も普通にまで回復したので、ドキドキしながら、いよいよ長期で通う事になっている、陳式太極拳四天王の一人である、陳正雷老師が開校している『陳家溝太極拳館』へ行ってみる事にしました。

 オドオドしながら陳正雷老師に通うように指示されていた『老館』の入口へ入ると、17歳くらいの『表演隊』(専門に太極拳の教練訓練を受けている子供たち)の徐(シュー)くんが、無表情な顔で授業の受け方を一通り教えてくれました。

 『陳家溝太極拳館』の授業においてメインで練功していたのは、伝統陳式太極拳老架一路(74式)でした。型は一通り何となくビデオで動いてみた事があったので、生徒の皆さんの後ろで、こっそり見よう見まねで動いていると、その時の授業の担当であった張東武(ジャン ドンウー)先生に、「横山!もっと腕を広げろ!」と厳しく指導れました。それまでは、柔らかく動く事だけが太極拳だと思っていたので、バリバリの雰囲気の本場の陳式太極拳に、初日から圧倒されてしまいました。

 でも、何だかやることがハッキリ分かっているような気がして、北京で感じた摩訶不思議感が無かったので、体力的にはかなり辛かったですが、心理的には楽なような気がしました。

 そして、太極拳館で練習を始めて2週間もしない内に、毎年恒例の『第七届国際陳氏太極拳高級培訓班』(中国国内・海外から陳式太極拳愛好者達が集まる国際合宿)が始まったのです!

第七届国際陳氏太極拳高級培訓班

 中国国内各地から集まった様々な太極拳家達、そして世界各国から訪れた様々な人種の太極拳愛好者達・・・

 正に、圧巻!感激!感動!

 相変わらず猛暑の中での練習でしたが、軽い脱水症状など気にもならない程の感動でした。

 そして、最も心を打たれたのが、私が参加していた「初級者コース」の指導担当で、広西から来られていた傅能斌(フー ノンビン)教練の太極拳の動きでした。

 細身で小柄な身体を完全にコントロールし、太極拳の風格を存分に湛えたその動きは、これまで見た事もない美しさでした。

 華麗さといった類いのものではなく、研ぎ澄まされ、洗練された野生の豹の様な美しさでした。

 また、太極拳を行っている時以外の何気ない所作も尋常ではない美しさなのです。

 歩く姿、水を飲む時のポットの持ち方、目線、全てに無駄がなく、洗練されていました。

 あくまで自然で、しかし一分の無駄も無いのです。

 聞けば傅能斌教練は、国際合宿の為、特別に広西省から来られているそうで、普段は河南省にはおられないそうです。大変残念に思いましたが、私は一週間という短い合宿期間中、その先生の動きを出来る限り目に焼き付けようと、毎日、全神経を集中して見入りました。

 そんな一点集中している私を他所に、100名近い参加者の間では「おいおい、日本人の女の子が河南省太極拳館に長期留学してるんだってよ、ほら、あの子!」という感じで(後から知った事ですが)非常に珍しがられていたそうです。

 この合宿の一週間という期間に、私は生まれて一度もこんなに汗を出したことがない、という程たくさん汗をかきました。そして、ゾッとする事に、毎日練習を終えアパートに帰り、洗濯をする時にアンダーシャツを見てみると、背中から腰にかけての辺りが、汗染みで黄色くなっているのです。そして、その黄色い汗染みは、洗っても洗っても落ちないのです。

 次の年からは汗は透明になったのですが、何か溜まっていた悪いものでも出てきたのでは、と後から考えて「太極拳を始めて本当に良かったなぁ」と、つくづく思いました。

つづく

ニーハオ、北京!

一度目の帰国

再び北京へ

二度目の帰国

太極拳発祥の地 -河南省-

三度目の帰国

太極拳発祥の地 -河南省-

八卦掌への道

八度目の帰国

八卦掌への道(中盤)

ページのトップへ戻る