日本中国伝統功夫研究会

私たちの会は八卦掌の鍛錬を通じ「天人合一」の境地を学ぶ会です

武魂・ト文徳老師

 2006年の1月上旬、先の北京逃避行から河南省へ戻り、いよいよ腹を据えて太極拳の練習に取り組んでいた頃、突然ト文徳(ぼく ぶんとく)老師という、かの有名な中華武林百杰の一人に選ばれた、御年90歳になられる老拳師よりお電話を頂きました。

中華武林百杰 ト文徳(ぼく ぶんとく)老師  ト文徳老師は、毛沢東の主催した会合で中国武術家を代表して演武をされた事もあり、また長年に渡り河南省武術協会の総教練を務め、多数のお弟子さん達を率い全国各地の武術大会に出場し、数え切れない程の輝かしい成績を残しています。

 幼い頃より武術を学び、現役時代には羅漢拳・六合刀・金絲槍・白猿棍・子午鴛鴦鉞などを得意とし、晩年になってからは『ト氏・八卦掌』を主に指導されていました。特に六合刀は中国少数民族の秘伝とされていたのですが、ト文徳老師のあまりの才能に、保守的な少数民族の伝承者より「是非伝授したい」と言われ継承されたそうです。

 そのト文徳老師の六合刀は、ひとたび刀を振り下ろせば、自分の上着のボタンを全て切り落とせるほど精密な技術とスピードを持ち、また殺気に溢れています(※写真は剣です)。とにかく“ひたすら「実戦」”を追求する、現代中国では既に数少ない本物の武術家の一人なのです。

 そんな凄いト文徳老師より、

 「横山さん、いつ八卦掌を学びに来れるんじゃ?」

 と、突然電話越しに問われた私は、鳩が豆鉄砲を食った様な声を出し、

 「え、え、あ、あのう、伺っても宜しいのでしょうか?」と、しどろもどろな返事をしてしまいました。

 実はト文徳老師には河南省へ渡って間もない頃、通訳の裴さんと共にご挨拶に伺った事があるのです。

 由縁は、私の日本の知人とト文徳老師に深い縁があり「河南省に行くのなら是非ともト文徳老師より八卦掌を学んで欲しい」という知人から勧められた事にあります。

 しかし、一度目の訪問では「河南省に来て太極拳を学び始めたばかりで八卦掌を同時に学ぶのは、どちらも中途半端になってしまうので太極拳に専念した方が良い」との事で、私はト文徳老師に丁寧にお礼を告げ、諦めて帰ったのです。

 (どうして八卦掌を学んでも良い事になったのだろう?)

 理由は解かりませんでしたが、とにかく「来週になったら練習に来なさい」と言われましたので、素直に行く事にしました。

 ・・・

 約束の朝、私は自転車に乗って練習場所である河辺の広場へ向かいました。

 広場にはト老師と数人のお弟子さん達が既にいらしており、ト老師は私を見つけると、

 「どうじゃね、太極拳館で一通りの型は学んだじゃろう、筋力もついて来た頃じゃないかね、ほほほ」

 とおっしゃり、更に続けて

 「しかし、どうじゃ、太極拳の本質が学べんので困っておるところじゃないかね?」

 とおっしゃいました。

 私は「はい、おっしゃる通りです、どうにも手掛かりらしき物がつかめません」と言ってト老師の目を見つめました。

 「教室は教室じゃからのう、そう易々と本質は教えぬもんじゃよ。どうじゃね、八卦掌を学ぶ気はあるかね?」

 と問われたので、私は選択の余地も無く「はい、是非教えを頂きたいです」と答えました。

 その日から、嗚呼、その日からなのです。その日から、私の地獄のスパルタ修行の日々が始まってしまったのです。

 普段は温和なト老師ですが、練習が始まるとト老師の“武魂”のスイッチが「ガッコン!」と入るのです。

 その姿は、本当にジャッキー・チェン主演の『酔拳』という映画に出てくる師匠に、プラス殺気満々な風格を加えた姿そのままなのです。(ト老師は大変な酒豪でもあり、90歳になられた今も尚、アルコール度数50度以上ある白酒を毎日2合は呑まれているのです)

 そして指導中のト老師の眼には、中国語で云う所の「神」が漲ります。

 『ト氏・八卦掌』の基本の型は、それほど複雑ではないのですが、とにかく最初から“眼法”を叩き込まれました。

 一つの型を終えると「駄目じゃ!駄目じゃ!顔が駄目じゃ!」と顔に“ダメ出し”をされます。

 (か、顔、顔がダメなの?顔は生まれつきだから、どうしようも無いよぅ・・・)

 と思い、「ト老師、私の顔がどの様にダメなのでしょうか?」と質問すると、「敵を見ておらんじゃないか!」と叱咤されます。

 (敵? 敵? 敵は何処?)

 そう思いながら「はい!わかりました!」と言って顔を作るのですが、「駄目じゃ!駄目じゃ!また顔が駄目じゃ!敵を見んで、どうやって戦うのじゃ!」と叱られます。

 「良~く見ておれ、こうじゃ!」

 そう言って技を行うト老師の顔は、正に“武魂”そのものです。

 「おおおおおー!」

 御年90歳とは思えぬ、その殺気に私は目から鱗が落ちました。

 (一体私は今まで何を考えて太極拳をやっていたのだろう・・・)

 何だか訳は解からないのですが、本物が“ここ”に有る!という感じだけは伝わってきました。

 この日から、早朝日の出と共にト老師に八卦掌をしごかれ、午前中に太極拳館で太極拳の練習をし(休憩時間に太極拳館の階段の踊り場でこっそり八卦掌の復習をしながら)、午後はト老師の自宅の前の駐車場で個人指導を受け、夜はまた太極拳館へ行き、という信じられないハードメニューに取り組む羽目になったのです。

つづく

ニーハオ、北京!

一度目の帰国

再び北京へ

二度目の帰国

太極拳発祥の地 -河南省-

三度目の帰国

太極拳発祥の地 -河南省-

八卦掌への道

八度目の帰国

八卦掌への道(中盤)

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