私の学んだ陳式太極拳

太極拳の源流 陳式太極拳

中国河南省温県陳家溝

太極拳発祥の地、中国河南省温県陳家溝。ここから全ての太極拳の源流である陳式太極拳が生まれました。

小さな農村ですが、子供からお年寄りまで、たくさんの人達が太極拳を鍛錬しています。また各家ごとによって独自の伝え方をしているといわれており、各家ごとに少しずつその風格が異なります。

私が学んだのがこの陳式太極拳です。その風格は一般的に普及している太極拳とは大きく異なり、太極拳の特長的なゆっくりとした柔らかな動きだけではなく、爆発的な発勁や、脚で強く地面を打ちつける(震脚)動作があります。

仕事のストレスで体調を壊していた頃に太極拳を学び始めた私は、「そんなに激しい動きは自分には合わないのではないか・・・」、と不安に感じた時期もありましたが、雄大な黄河のほとりで生まれた陳式太極拳の心身のリラックス法と、独自の螺旋運動によって全身のバランスを協調してゆく動きは、練功を行っていると非常に心地良く、体質も2年ほどで大きく改善され、数年後には虚弱体質だった子供の頃よりも活力の有る毎日を過ごせるようになってゆきました。

深い放松(リラックス状態)で『入静』という状態を保ち練功を行うことから「動く禅」とも呼ばれる太極拳ですが、練功を行っていく中で、少しずつその本質を体得していく事ができます。

また練功中だけではなく、普段の生活の中にある、緊張と弛緩、運動と休息、開と合、息を吸い、そして吐く、といった動きの中からも陰陽のバランスを整え、中庸の道を志すことで、自然本来の生命力を感じていくことができます。

「自然の本質そのものと一体となる」=「天人合一」、それが太極拳を含む中国伝統思想が目指す最高境地です。

この太極拳もいくつかの流派に分かれ、現代では陳式、楊式、呉式、武式、孫式と代表的な五派があります。

その全ての流派の源流である『陳式太極拳』の発祥の地・陳家溝の村には、太極拳の創始者である陳王廷(ちん おうてい)祖師を奉った記念館があります。

館内には沢山の貴重な資料や画が展示しており、毎日のように中国各地、また海外から多くの太極拳愛好者達が太極拳のルーツをたどり訪れています。

陳式太極拳発祥の地・陳家溝にて(淺田美代子)  私が留学し太極拳を学んだのは、この陳家溝が生んだ陳式太極拳四天王の一人である陳正雷老師の開いた、中国河南省鄭州市にある『陳家溝太極拳館』です。

ここで、一般の太極拳愛好者から、専門に太極拳教練になる為の訓練を行う若者たち、また海外から太極拳を学びに来る外国人など、たくさんの拳友たちと共に学ぶ機会に恵まれ、そして多くの教練の指導法を体験したことから、私の太極拳人生は大変豊かなものになり、また太極拳の将来に向かっての可能性を知ることができました。

しかし素晴らしい太極拳の学びの初期には、数え切れないほどの困難もありました。

懐かしく思い出せるのは、学習初期の頃、何故か時々体のあちこちが痛くなることがありました。筋肉痛の痛みとは少し違いそれほど辛くはなかったのですが、これは長年の運動不足や体調不良により鈍くなってしまった経絡の滞り(未病)が刺激され、それによって生まれた痛みだったそうです。最初はびっくりしたのですが練功を続けていくうちに痛みは徐々に軽くなっていき、それと共に太極拳の心地よさを感じられるようになっていきました。

中医学には「痛則不通、通則不痛」(気が滞れば痛み、通れば痛まず)という言葉があります。この「痛い」という感覚は体からのサインであり、そのサインを自分がどう受け取るか?というのが大切になります。疲労しているのに体の症状を無視して仕事を続けていれば、いつしか痛みは麻痺して私達にサインを送らなくなってしまいます。無理をして仕事をしていた頃の私の状態がそうでした。仕事のプレッシャーから、食べなくても寝なくても寒くても暑くても、何も感じなくなっていたのです。

太極拳を学び始めてからは、普段の生活でもだんだん呼吸が整ってきて、長い時間緊張をしていても以前のように眩暈がするようなことはなくなりました。肌の血色もよくなり、外出するときもノーメイクで日焼け止めも塗らずに過ごせています。自分では気づかなかったのですが身長が2センチ近くも伸びていたようで、久しぶりに友人に会うと「本当に変わったね、後姿が別人みたい」と言われます。

約300年前に中国河南省陳家溝で生まれた太極拳の理と実践法が、現代社会でも十分に活かせるのです。それが私の学んだ太極拳です。