秋の井の頭公園でどんぐりを探すなら、公園の最南端の入り口から歩き始めるのがおすすめです。どんぐりの種類も数も多く、広場や木陰があるので、落ち着いて探せるからです。
去年の10月は、どんぐりを探しに行こうと思い立った日に、あわててインターネットと手持ちの『井の頭公園いきもの図鑑』でどんぐりの種類を頭に入れて出かけました。ところが、実物を見てみると、特徴のあるクヌギとスダジイ以外はほとんど見分けがつきませんでした。
今年は何も調べずに出かけたのですが、その代わりに、西園から去年は行けなかった池の東側まで、足元に落ちているどんぐりの帽子と、落ちている場所の木の葉を、一か所ずつ見比べながら歩きました。今回は、12か所で見つけたどんぐりと、帽子と葉で木の名前を確かめる見分け方を紹介します。

野球場の南 スダジイとシラカシ
井の頭公園の最南端の入り口を入ってすぐ、野球場の南の道沿いに、最初の木があります。石の上や歩道に、黒っぽい細長いどんぐりが落ちていました。先がとがり、つやのある濃い茶色で、帽子は見当たりません。去年よりも数は少なく見えました。
足元には、先が割れた殻も転がっていました。この殻が木の名前の手がかりだったのですが、散策を始めた直後の朝は気づきませんでした。答えが分かったのは、ここからジブリ美術館の南まで歩いて、再び入り口へ戻ってきてからです。


野球場の東 コナラ
野球場の東には、うろこ模様の帽子をかぶったどんぐりが落ちていました。帽子は浅いお椀の形で、短いうろこがぴたりと重なっています。実は楕円で先が少しとがり、明るい茶色につやがあります。
うろこの帽子は、クヌギとコナラの仲間の印です。クヌギの帽子は長いうろこが反り返りますが、ここの帽子のうろこは短く、反り返りません。この木はコナラです。

そのすぐそば アラカシらしい木
すぐ近くの木には、まだ緑のどんぐりが枝に付いていました。根元の小さな帽子には、横縞の輪が重なっています。輪の帽子は、カシの仲間の印です。
葉は幅の広い楕円で、中ほどから先に粗いギザギザがはっきり出ています。葉の裏は薄い緑でした。この葉の形から、アラカシではないかと見ています。実が熟して落ちる頃に、もう一度確かめたい木です。

文化交流広場 シラカシ
文化交流広場は、去年「ウラジロガシ?」「アラカシ?」と首をかしげたまま帰った場所です。足元いっぱいに、輪の帽子のどんぐりが落ちていました。熟した茶色の実と、緑に縦の縞が残る若い実が、同じ木の下に並んでいます。この日一番どんぐりが落ちていたのは、この広場の木の下でした。


見上げた葉は細長い槍の形で、縁の先の半分に細かいギザギザが並んでいます。葉の裏は灰色がかった薄い緑で、ウラジロガシのような白さはありません。今年この広場で見上げた木は、どうやらシラカシだったようです。
足元の葉は、風に乗って周りの木から集まってきます。迷った時は、枝に付いている葉を見上げるのが手がかりでした。
ジブリ美術館の南 クヌギ
三鷹の森ジブリ美術館の南側には小さな雑木林があり、中にはひっそりと静かな遊歩道があります。木の根元は柵で保護されているので立ち入ることはできませんが、柵の下や歩道に転がっているどんぐりを観察することはできます。
ここにはクヌギのどんぐりが落ちています。落ち葉や枝や地面に生えている植物で見つけにくいのですが、大きな実と帽子が目印です。クヌギの帽子は長いうろこが外へくるりと反り返り、実はまんまるに近い形です。たいていバラバラに落ちているので、いつか帽子をかぶったままのクヌギのどんぐりに出会ってみたいです。

出発地点へ戻って スダジイの答え合わせと金色の葉
お気にいりのクヌギを見つけてベンチに座ると、やはり入り口のどんぐりが気になったので戻ってみると、殻に包まれたどんぐりが落ちていました。殻が実を丸ごと包み、熟すと先から割れて、黒っぽい細長い実がのぞきます。輪の帽子でも、うろこの帽子でもない、スダジイの実です。最初の木の下で拾った実と、同じ色と形でした。
朝はアスファルトの歩道ばかり見ていて気づきませんでしたが、木の下の土の上には、たくさん落ちていました。歩道の実は、踏まれたり、掃かれたり、転がったりします。木の下の土の上が、その木の落とし物の場所です。


最初の木の葉を裏返すと、金色でした。スダジイの葉の裏は、金色がかった茶色をしています。これで、最初の木はスダジイだと分かりました。

隣にはシラカシが並んでいます。葉の縁のギザギザは浅く細かいので、風で葉が揺れていると見落とします。写真に撮って拡大すると、葉の先の半分に小さなギザギザが並んでいました。朝の道に混ざっていた輪の帽子の実は、このシラカシから転がってきたのかもしれません。

次の場所に移動するためにグラウンドに入ろうとした時、強い風が吹いて頭上の葉が鳴りました。見上げると、濃い緑の中で、金色の葉が風に波打っていました。スダジイの樹冠です。

「下を見て上じゃなくて、上を見て下のどんぐりを見つけた。」
御殿山 どんぐりの落ちていない林
御殿山エリアは、道路を挟んで手前と奥に分かれた雑木林です。遊歩道と木と落ち葉が続きますが、どんぐりは一つも見つけられませんでした。よく通っている林ですが、これまでどんぐりを踏んだこともありません。
林の中には、看板の付いた大きなイヌシデが立っていました。イヌシデはカバノキの仲間で、どんぐりをつけません。林の中心がどんぐりをつけない木だから、なのかもしれません。
鳥はたくさん鳴いていましたが、姿は見つけられませんでした。代わりに、10月の終わりのモンキチョウが飛んでいました。


井の頭池のまわり
後半は、弁財天から池の南側を東へ歩き、三角広場で折り返しました。池の周りは窪みになっていて、木は斜面の上に立っています。幹に近づけない所が多いので、足元の実と頭の上の葉を見比べながら歩きました。
弁財天の南には、「しらかし」の看板が付いた木があります。名前の分かる木は、見分けの見本になります。

七井橋の南では、輪の帽子のどんぐりと細長い葉が並んで落ちていました。看板のシラカシと同じ形の葉で、ここもシラカシです。枝には、まだ実が付いていました。前半のジブリ美術館周辺の広場とは違い、歩行者が多いので、落ち着いて座り込むこともできず、そばに寄ってキョロキョロ観察するしかできません。


ボート乗り場の東のどんぐりは、この日見た中で一番色が濃く、黒に近い焦げ茶です。帽子は実の3分の1くらいまで深くかぶり、実は丸みの強い形でした。
そのすぐ近くは、井の頭池の周りで一番どんぐりが落ちていた場所です。帽子はどれも輪で、内側が若い緑のお椀になっています。粗いギザギザの葉と、裏の白っぽい葉が混ざっていました。


ブルースカイコーヒーの前のスダジイには、キノコが生えて弱っているというお知らせが貼られていました。公園の人が見守っている木です。
ひょうたん池の南では、クヌギのもじゃもじゃの帽子と、カシの仲間の輪の帽子が、大きさの違いごと並んで落ちていました。
帰り道には、水門橋の北で再びスダジイを見つけました。スダジイは入り口、ブルースカイコーヒーの前、水門橋の北と、公園の西から東まで3か所で発見することができました。


持ち主の見つからなかったどんぐり
七井橋を渡った南側の池に近い場所では、輪の帽子のどんぐりがたくさん落ちていましたが、木が何本も重なって生えているので、どの木の実かは分かりませんでした。
去年は行けなかった三角広場南側では、見つけられないと思ったところで、少しだけ見つかりましたが、見上げると、頭の上の木には赤い実が付いていて、どんぐりの木ではありません。足元のどんぐりは、近くのカシの仲間から転がってきたものかもしれません。


持ち主の分からない実は、無理に名前を付けず、分からないまま記録しておきます。熟した実なら、先の突起の根元を見るのが手がかりになります。リング状の模様があればシラカシ、なければアラカシです。
どんぐりを観察するなら
見分けの順番は、帽子、それから葉です。
帽子がうろこ模様なら、クヌギとコナラの仲間です。うろこが長く反り返ればクヌギ、短く重なればコナラです。
帽子が横縞の輪なら、カシの仲間です。ここからは葉の形で見ます。細長く、ギザギザが細かいのがシラカシ。幅が広く、先の半分に粗いギザギザがあるのがアラカシ。葉の裏が粉をふいたように白ければ、ウラジロガシです。
比較的見分けやすいのがスダジイで、殻が実を丸ごと包み、先から割れています。殻から出ている実も細くて三角形の形をしているので、ひと目見ればわかります。迷ったら上を見上げてください、葉の裏が金色をしています。
図鑑には、名前に濁る音のある木(スダジイ、クヌギ、マテバシイ)は花が咲いた翌年に、濁らない木(コナラ、シラカシ、アラカシ)はその年のうちに実が熟す、とあります。
観察する場所は、西園のジブリ美術館の周りや、入り口の広場のあたりがおすすめです。木が多く、木陰があり、遊んでもいい広場があるので、立ち止まったり座り込んだりして、落ち着いて探せます。池の周りにもどんぐりは落ちていますが、遊歩道は歩く人が多く、立ち止まって観察するには少し気が引けます。
10月のひとこと
爽やかな秋晴れの日に下を向いてどんぐりを探しながら歩くのは、一見もったいないような気がしますが、実はそうではありません。足元の小さなどんぐりの名前がわかれば、その上に大きく葉を茂らせる親木と、その向こうの空まで一つにつながっているような感覚を体験できます。
一つ名前を覚えれば、一つ世界が開かれる。
小さなどんぐりの観察記録でした。
参考:髙野丈 編著『井の頭公園いきもの図鑑 改訂版』ぶんしん出版
