発音できれば聞き取れる

日本人が苦手な中国語の子音の発音があるのですが、ピンインで「zh,ch,sh,r」と表記され、「そり舌音」と呼ばれます。

例えばタクシーですが、中国語で「出租车(chū zū chē)」と言います。

私が北京に渡ったばかりの頃、どうしてもこの発音ができなくて猛特訓したことがあるのですが(タクシーに乗れないと出掛けられないし、万が一迷子になったらホテルに帰れない)、現地の中国人に何度発音してもらっても「チュー チュー チャー」にしか聞こえませんでした。

また万里の長城は「长城(Cháng chéng)」と言うのですが、これは相当難易度が高く、何十回聞いても母音が聞き分けられず「チャーン チャーン」にしか聞こえませんでした。息を止めて聴覚に全集中しても、何が違うのかまったくわからなくて途方に暮れたものです。

見かねた黒竜江省出身の友人が、発音の先生になってくれました。

黒竜江省はピンインの発音が標準語と同じで、なおかつ北京語の巻き舌音がないので当時の私にはとても聞き取りやすく、おかげであっという間に単語の発音が現地の人に通じるようになり、その後の中国語会話のレベルは目覚ましく伸びました。

子音と母音を分けて、毎日喉が筋肉痛になるまで発声練習をしてから1か月が経ったころ、初めはほぼ全てダメ出しされていた発音が正確に発音できるようになり、すると突然「出租车(chū zū chē)」が聞き取れるようになりました。

1か月の間ずっと異国の地で英語でも日本語でもない、聞いたことない音に囲まれて生活していたので、その時の耳の感覚は、ずっと水中に潜っていた状態から陸に上がったくらい鮮明で、にわかに世界が喋りだしたような気がしました。

現在、日本に帰ってきて既に13年が経ちますが、今でも字幕なしで中国語の映画を観ても母国語とほぼ変わらなくらい聞き取れますし、HSK6級(漢語水平考試の最高級)を受けても不思議にリスニングはまったく落ちていません。

これらの経験から、外国語学習に成功したいと思ったら、まず初めにネイティブの人に依頼をして初期の段階で発音を完璧にマスターすると間違いないと思います。

発音できない音は、音としても正確に聴き取れませんし、言語としてもまったく認識できません。

発音が不確かなうちに単語やフレーズをたくさん覚えても、頭の中で正確な発音で再生されていないので、いざ会話となると口から出てきません。

たくさん喋らないことには会話は上達しないので、最初は単語もフレーズも少なくて良いので、完璧に伝わる発音で話すことが、短期間でたくさんの会話をすることに繋がります。

できれば完璧主義の人を探して徹底的に発音を叩き込んでもらうと、その後の自分の努力はもちろん必要ですが、一生ものの外国語をマスターできる可能性がかなり高くなると思います。

この記事を書いた人

日本中国伝統功夫研究会の会長。八卦掌と太極拳と華佗五禽戯の講師。中国武術段位5段/HSK6級/中国留学歴6年(北京市・河南省)

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