HUA TUO WUQINXI

華佗五禽戯

五つの動物に学び、
身体を鍛えて養う

華佗五禽戯は、中国後漢末の名医・華佗が、虎・鹿・猿・熊・鳥の動きをもとに創始したと伝えられる養生法である。動物の姿形だけでなく、その力強さ、機敏さ、落ち着きや伸びやかさを身に取り入れ、動作・呼吸・意識を一体として練習する。

当会会長・横山春光は、華佗の故郷である安徽省亳州市を訪れ、董文煥老師、馬偉財老師をはじめとする現地の老師たちから、伝統華佗五禽戯を学んだ。このページでは、その場で受けた口伝を中心に、五禽戯の歴史と系譜、各戯に込められた養生の考え方、練習で大切にされてきた教えを紹介する。

五禽戯の歴史

華佗五禽戯の歴史
華佗五禽戯の創始

華佗と五禽戯

華佗は、亳州で「神医」として敬われてきた人物である。現地では、医術と養生を結びつけ、人々が自ら身体を養うために五禽戯を伝えたと語られている。

『三国志』の華佗伝には、華佗が弟子の呉普に、身体を動かすことの大切さと、疲労の極みに至るまで無理をしてはならないことを説き、「五禽之戯」を教えた記録がある。虎・鹿・熊・猿・鳥の名も記されており、五禽戯の歴史をたどるうえで重要な文献となっている。 『三国志』巻二十九

受け継がれてきた養生の文化

五禽戯は、各地の伝承者による実践と工夫を重ねながら受け継がれてきた。現在も、動作の構成や練習方法、養生理論の説明に、それぞれの伝承の特色がある。

亳州の華佗五禽戯も、その土地の暮らしとともに伝えられてきた養生文化である。2011年には、安徽省亳州市の「華佗五禽戯」が、中国の国家級非物質文化遺産代表性項目名録に登録された。 中国非物質文化遺産網

現代の「健身気功・五禽戯」

現在広く普及している五禽戯には、国家体育総局健身気功管理中心が、古典や各地の伝承を調査して編成した「健身気功・五禽戯」もある。これは各動物につき二つ、計十の動作を中心に構成された功法である。 国家体育総局・編成解説

当会が亳州で学んだ伝統華佗五禽戯を理解する際には、こうした現代の編成功法との関係を踏まえ、それぞれの動作や教えを確かめることが大切である。

系譜

亳州では、華佗を開祖、弟子の呉普を第二代とする系譜が伝えられている。当会が現地で学んだ華佗五禽戯も、この伝承に連なる。

以下は、亳州で伝えられてきた代数に沿って、主な人物を紹介するものである。

開祖 華佗
第二代 呉普
・・・
第五十三代 路武挙(中医師)
第五十四代 王澤(清朝の武進士)
第五十五代 王乃普(清末の毅軍五営統領)
第五十六代 譚継林(亳州の武術家)
第五十七代 董文煥、劉時栄
第五十八代 馬偉財、陳静

開祖華佗神医・華佗五禽戯創始者

華佗五禽戯創始者「華佗」
華佗五禽戯創始者「華佗」

後漢末に活躍した医師。字は元化。現在の安徽省亳州市にあたる地域に生まれ、医薬や鍼灸に通じ、外科の名医としても知られた。

『三国志』には、官職への推薦や招聘に応じなかったこと、各地の患者を診療したこと、麻沸散を用いた外科処置の逸話が記されている。後世には、その医術から「神医」「外科医学の鼻祖」と称えられてきた。

身体を動かすことと養生を結びつけ、弟子の呉普に五禽戯を伝えた人物として、その名が受け継がれている。

華佗の人物紹介へ

第五十六代継承者 譚継林

亳州の魏崗鎮前譚楼に生まれ、王乃普から華佗五禽戯を受け継いだ武術家。軍務のかたわら拳術や器械を修め、帰郷後は董文煥や劉時栄らに五禽戯と武術を伝えた。

正義感の強い人柄で淮北地方に名を知られ、「譚大侠」と呼ばれたと伝わる。弟子たちの指導や研究、著述を通じて、その教えは次の世代へ受け継がれた。

譚継林の人物紹介へ

第五十七代継承者董文煥華佗五禽戯

華佗五禽戯第五十七代継承者 董文煥
華佗五禽戯第五十七代継承者 董文煥

亳州市十八里鎮に生まれ、十五歳で譚継林に師事。十年間にわたり形意拳と華佗五禽戯を学び、農業を営みながら武術の修練と研究を重ねた。

村の子どもたちへの指導、各地での講習や表演に加え、五禽戯の資料整理と著述にも力を注いだ。国内外から訪れる学習者にも教えを授け、国家級非物質文化遺産「華佗五禽戯」の代表性伝承人となった。

当会会長・横山春光も、その教えを直接受けた一人である。動作の修得とともに、鍛えることと身体を養うこと、生涯を通して学ぶことの大切さを伝えた老師である。

董文煥の人物紹介へ

第五十八代継承者 馬偉財

幼少より董文煥に師事し、華佗五禽戯のほか、形意拳、春秋大刀、姜家槍などを学んだ。董文煥の活動を支え、国内外から亳州を訪れる学習者の受け入れにも携わった。

横山春光の亳州での学習にも関わり、現地に伝わる五禽戯の教えと資料を日本へつなぐ役割を果たした。

馬偉財の人物紹介へ

五禽戯の特徴

動物の姿と性質に学ぶ

華佗五禽戯の大きな特徴は、動物の動きを手本として身体を鍛え、養うことにある。

亳州で受けた教えでは、その背景は、人々が自然のなかで動物の優れた能力を観察し、自らの身体に取り入れようとした営みに結びつけて説明された。虎の力強さ、鹿の伸びやかさ、猿の機敏さ、熊の重厚さ、鳥の優美さ。それぞれの動物の性質を思い描きながら、動作を身につけていく。

動作・呼吸・意識を合わせる

五禽戯では、動作の形とともに、呼吸と意念の運びを重んじる。身体を整える「調身」、呼吸を整える「調息」、心を整える「調心」を、練習のなかで結びつけていく。

各戯と五臓の関係も、現地で学んだ重要な教えの一つである。当会が受けた説明では、虎は腎、鹿は肝、猿は心、熊は脾、鳥は肺に対応する。これらは中医学に基づく身体観であり、各戯の動きや意識の置き方を理解する手掛かりとなる。

鍛えることと養うこと

亳州の伝承では、華佗が患者の術後の回復にも五禽戯を勧めたとされる。医術と身体を養う営みを結びつけて捉える教えである。

この術後回復の話は、『三国志』や『後漢書』の華佗伝で確認できる五禽戯の記述とは分け、現地で受けた教えとして紹介する。

練習では、動きを正確に学ぶことと同じく、無理を重ねず、休養を取りながら続けることを大切にする。鍛錬を意味する「練」と、身体を養う「養」を結びつけることが、五禽戯を学ぶ基本となる。

各戯に伝わる養生の教え

当会が亳州で学んだ伝統華佗五禽戯では、五つの動物の身法を、五臓や身体各部の働きと結びつけて理解する。以下は、その口伝に基づく養生の解説である。

腎・肝・心・脾・肺は、中医学における五臓を指し、身体の働きや精神活動との関係を含む。各戯の説明も、この伝統的な身体観に沿うものである。

華佗五禽戯について
華佗五禽戯と五行の相関図

虎戯――力強さを養う

虎は腎に対応し、骨を養う。

虎の掌を模した「虎爪」の手型を用い、全身の腱・骨格・関節を連動させて練習する。虎の力強さを身法に取り入れ、腎を養い、骨を健やかに保つ。

華佗五禽戯「虎戯」横山春光
2009年中国亳州市
華佗五禽戯「虎戯」横山春光

鹿戯――伸びやかさを養う

鹿は肝に対応し、筋を養う。

鹿を模した伸びやかな動きで、身体をしなやかに使う。筋を伸ばし、血の巡りを整え、肝の働きを養うという考え方が、その身法の基礎にある。

華佗五禽戯「鹿戯」横山春光
2009年中国亳州市
華佗五禽戯「鹿戯」横山春光

猿戯――機敏さと心の働きを養う

猿は心に対応する。中医学の「心」は、血脈と意識・精神活動に関わる働きを持つ。

機敏で変化に富む猿の動きを手本に、動作と意識を合わせて練習する。血脈を養うとともに、意識を柔軟に働かせ、心身の軽やかさを育む戯である。

華佗五禽戯「虎戯」横山春光
2009年中国亳州市
華佗五禽戯「猿戯」横山春光

熊戯――重厚さと安定を養う

熊は脾に対応し、脾胃を養う。

よく食べ、たくましい身体を持つ熊の、慎重で力強い動きを手本とする。養生上は、消化吸収を担う脾胃の働きを助け、丈夫な身体を育てることを重んじる。睡眠と精神の落ち着きも、熊戯の養生に含まれる。

華佗五禽戯「熊戯」横山春光
2009年中国亳州市
華佗五禽戯「熊戯」横山春光

鳥戯――優美さと呼吸の調和を養う

鳥は肺に対応し、皮膚を養う。長寿と優美さを象徴し、飛翔と平衡に優れた鶴を手本とする。

亳州の口伝には、肺呼吸とともに「皮膚呼吸」を重んじ、長時間飛び続ける鶴を「全身で気を呼吸する」と捉える呼吸観がある。ここでいう「皮膚呼吸」は、伝承における用語であり、生理学上のガス交換とは区別する。

鶴の姿を思い描き、呼吸と全身の動きを合わせ、伸びやかさと平衡を養う。肺と皮膚を養い、気や経絡の流れを整える戯である。

華佗五禽戯「鳥戯」横山春光
2009年中国亳州市
華佗五禽戯「鳥戯」横山春光

練習方法

亳州で学んだ華佗五禽戯では、動作の正確さ、意念の運び、日常の心のあり方、学び続ける姿勢、鍛錬と休養の調和を重んじる。ここでは、現地で受けた口伝と、当会が旧日本支部サイトにまとめた練習の要点を紹介する。

一、動作を正しく身につける

五禽戯は、身体を動かす「動功」を中心とする功法である。伝承では「形をもって気を導く」とされ、一つひとつの動作に意味と働きがある。

手の形、身体の向き、動きの順序を丁寧に確かめ、各戯の要領に沿って練習する。特に学び始めに身につけた動きは習慣になりやすいため、初めの段階から正確さを大切にする。

二、意識を正しく運ぶ

五禽戯では、動作に伴う意識の働きを「意念」と呼ぶ。動物の姿だけでなく、その動きに込められた性質を捉えることが、練習の重要な要点となる。

たとえば虎戯では、獲物を探す動作には慎重な意識を用い、獲物を捕らえる動作には勇猛で自信に満ちた意識を用いる。同じ虎の動きでも、場面に応じて意識の働かせ方が変わる。

中医学では、五臓を中心として、身体の各部、感覚、声、感情などが互いに関わると考える。五禽戯の意念も、この身体観に基づき、動作・呼吸・内面の働きを結びつけるものである。

三、日常のなかで心を養う

意識の修養は、練習の時間だけで完結するものではない。日々の暮らしのなかで、自らの感情や心の動きに目を向けることも含まれる。

現地で学んだ中医学の説明では、心は喜び、肺は悲しみ、肝は怒り、脾は思い、腎は恐れと結びつく。また、怒りによって気は上がり、悲しみによって消耗し、恐れによって下がり、思いが重なると結び、喜びによって緩むと説かれる。

こうした教えは、感情と身体を一体として捉える養生の考え方である。身体を鍛えるとともに、日常の心のあり方にも気を配る。

四、根気よく学び続ける

中国には「活到老、学到老、還有三分没学好」という言葉がある。一生をかけて学び続けても、なお学び尽くせないものがある、という意味である。

五禽戯も、動作の順序を覚えれば学び終えるわけではない。繰り返すなかで、動作と呼吸、意念の関わりを確かめ、理解を深めていく。積極的に学ぶ姿勢と、学び残したものに向き合う謙虚さを大切にする。

五、鍛錬と養生を結びつける

「練」は鍛錬を、「養」は休養を含めて身体を養うことを意味する。練習の量を増やすことだけに心を奪われず、疲労に応じて休み、鍛えることと養うことを調和させる。

『礼記』の「一張一弛、文武之道也」は、張る時と緩める時の双方を大切にする言葉である。旧日本支部サイトでは、この言葉を引いて、練習と休養の関係を説明してきた。〔『礼記』雑記下〕

『三国志』には、華佗が弟子の呉普に、身体を動かすことは必要だが、疲れ切るほど行ってはならないと説いた記録がある。動くことと、無理を重ねないことを、あわせて伝える教えである。〔『三国志』巻二十九〕

また、『黄帝内経・素問』には、長く見続けると血を、横たわり続けると気を、座り続けると肉を、立ち続けると骨を、歩き続けると筋を損なうという「五労所傷」の教えがある。これは華佗の発言とは別の古典の記述であり、一つの動作や姿勢に偏り過ぎることを戒める養生観である。〔『素問』宣明五気篇〕

五禽戯では、動作・呼吸・意念を合わせる練習と、日常の休養や心の修養を一続きのものとして捉える。自らの身体の状態に目を向け、長く学び続けることが、その基礎となる。

当会の華佗五禽戯

亳州で受け継いだ教え

当会会長・横山春光は、安徽省亳州市で、第五十七代継承者・董文煥老師、第五十八代継承者・馬偉財老師をはじめとする現地の老師たちから、伝統華佗五禽戯を学んだ。

2008年11月には華佗五禽戯の教練員証書を授与され、2009年9月には董文煥老師より「中国亳州華佗五禽戯健身養生館」日本支部の認証を受けた。

馬偉財老師からは、現地に伝わる五禽戯に関する資料も数多く提供された。老師たちとの交流を通じて受け取った口伝と伝承資料は、亳州での学びを日本へ伝えるうえで、大切な支えとなっている。

2008年11月「華佗五禽戯」教練員証書を授与される
2008年11月「華佗五禽戯」教練員証書の授与式
2008年11月「華佗五禽戯」教練員証書を授与される
董文煥老師より教練員証書を授与される
中国亳州華佗五禽戯健身養生館
2009年9月 安徽省亳州市にて

動作と、その背景にある養生を学ぶ

当会では、亳州で学んだ伝統華佗五禽戯を基礎とし、五つの動物の身法と、それに伴う呼吸・意念を大切にする。動きの名称や順序とともに、各戯に込められた養生の考え方を伝えていく。

この参考資料は、現地で受けた教えの背景を知り、中国武術留学記に登場する老師や練習への理解を深めるためにまとめたものである。実際の学習と交流の様子は、華佗五禽戯の修行記録に掲載している。

華佗五禽戯の修行記録を読む

「華佗五禽戯」イベント案内

当会では、会員を対象に、華佗五禽戯のイベントを不定期に開催している。都内の公園やスタジオで、五つの動物の身法と、その背景にある養生の考え方を学ぶ。

開催案内と参加方法は、イベントページに掲載している。