習得の深度を表す言葉「会」

現地で学んだ中国語 習得の深度を表す言葉「会」

中国で太極拳を学んでいた頃、老師に質問されて何と答えてよいのか散々迷った言葉に「会」があります。

会(ホィ)にはいくつかの意味がありますが、授業の場で使うのはほとんど「~ができる」という意味で、例えば「あなたは老架一路ができますか?」という感じに聞かれることが多いです。

日本の陳式太極拳教室で、先生に「老架一路はもうできますか?」と質問されても、ほとんどの人は「はい、ひと通りできます」とは答えられないと思いますし、先生もそんな聞き方はしないと思います。

もし私が太極拳歴3年くらいの時期に戻って、中国人と日本人の先生に同じように質問されたら、中国人の先生には「はい、ひと通りできるようになりました」と答え、日本人の先生には「いえ、まだまだできません」と答えると思います。

私自身の経験を踏まえた個人的な分析ですが、日本の学習姿勢が受動的であるのに対し、中国は能動的であるという違いに因るものではないかと思います。

日本だとなんとなく先生や周囲の人々に認められないと「できるようになった」と言ってはいけないような気がするし、自分でもできるようになったのかよく分からないので、「会」(できる)と答えづらいと思います。

しかし、中国の老師や仲間に質問されている意味は「一人で型を練習できるようになっているか?」という単純な確認なので(やばい、3年も学んでいるのにまだできませんなんて、やる気がないと思われるので言えない)となってしまうので「我会」(はい、できます)と答えることになります。

どちらにせよプレッシャーを感じることに変わりはないのですが、自分の限界を突破しやすいのは「はい、できます」の方だと思います。

ただ、これが分かったのは中国に渡って数か月経ってからなので、最初は何を質問されても「我不会」(いいえ、できません」とばかり答えていて、でも実際の授業では基本や型は覚えているので、「過度な謙遜は嫌味になる!」と言って嫌われてしまいました。

中国伝統武術の型が「会」(できる)かどうかは、競技で判定されるものではないので、中国においては「会」の質問には「自分一人で気持ちよく型を練習できるようになったか?」という自己判断のみで答えて正しいと思います。

「老师,我会练老架一路!」

と笑顔で伝えれば、やる気を認めてもらい、更なる段階を指導してもらえること間違いなしです。

この記事を書いた人

日本中国伝統功夫研究会の会長。八卦掌と太極拳と華佗五禽戯の講師。中国武術段位5段/HSK6級/中国留学歴6年(北京市・河南省)

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