呼吸と動作に重要な関係があることは殆どの人が知っていると思いますが、発音も動作に大きく影響していることはあまり知られていないと思います。
私たちが義務教育で習った球技、バレーボール、サッカー、バスケットボールなどはイギリスやアメリカが発祥国なので、私たちは自然に「サーブ」「シュート」「パス」など、ゲーム中でも英語で動作を発音しながら練習することができますが、太極拳や八卦掌だったらどうでしょうか?
頻繁に用いる動作用語として、以下にそれぞれ3つずつ挙げてみます。
太極拳の動作用語
円を描く=画圓(ホア ユエン)
足を前に出す=上歩(シャン ブー)
力を抜く=放松(ファンソン)
八卦掌の動作用語
突き=穿掌(チュアン ジャン)
回転=転身(ジュアン シェン)
円を歩く=走圏(ゾウ チュエン)
※中国語で歩くことを「走」と書く、因みに走るは「跑」
なんとなくカタカナ発音で動作をイメージしたり、実際に中国語の発音で聴いたりすると、日本語よりも太極拳や八卦掌の動作の「勢」が伝わってくると思います。
イメージだけでも効果があるのですが、発音しながら動作を行ってみると日本語と中国語とではかなり感覚が違います。
日本語の母音(5個)と子音(13~16個 ※諸説あり)の数に対して、中国語の母音(36個)と子音(21個)は数が多く、また摩擦音や破裂音は日本語に比べると強い発音が多いです。
日本語はたいていの発音を声帯振動だけでできるのですが、中国語はたくさん息を吸って腹筋を使ってコントロールしないと発音できない音が多いので、より動作に直結しています。
私が中国の北京市に渡ったばかりの頃はとにかく発音に苦労して、現地の中国人から発音トレーニングを受けているときは、頻繁に過呼吸や酸欠状態になっていました。
国自体も日本とは違い、多種多様な民族が入り混じる街中は賑やかで、自分の意見をはっきり相手に伝えてコミュニケーションを図らないと買い物すらできないことが多いので、声量自体も大きくする必要があります。実際に私は、中国に渡る前と帰国後では声量と肺活量が大幅に増加しました。
日本古来の武術や伝統芸能の稽古で使われている言葉も、外国語では表現しきれない含意や勢いがたくさんあると思います。
個人的には、例えば壁を中国語で「トゥイ」と言いながら推すのと、日本語で「おす」と言いながら推すのとでは発力のタイミングが明らかに違うのですが、日本語の掛け声の「エイッ!」と言いながら推すと発音が近いからなのか、かなり似た感覚で行えます。
また、授業中に生徒さんに向けて太極拳や八卦掌の動作を行いながら、全てを日本語で解説するとかなり疲労するのですが、動詞や型の名称だけでも中国語で発音すると呼吸が乱れないので楽です。
原則として、太極拳や八卦掌などの内面を主として鍛錬する内家拳の練習は、声を出さずに行うものなのですが、動作を覚えて余裕が出てきたら、ぜひ好きな動作や苦手な動作を中国語で発音しながら行ってみてください。
きっと新しい発見があると思います。