2025年5月20日。その日は所用で有給休暇を取っていました。
京王線の千歳烏山駅で10時に待ち合わせの予定だったのですが、5月は公園練習に適した季節で新緑も美しいので、早朝時間を活用して練習しようと思い立ち、千歳烏山に最もアクセスしやすいおすすめ練習スポットである「天神山城跡」に行くことにしました。
ちょうど写真を撮りに行きたかったという会長と共に、新緑を少しすぎ緑濃くなっていた天神山城跡で太極拳や八卦掌の練習をしたのですが、太陽が昇り気温が上がると蚊が出てきたので、時計を見ながら次の用事のために天神山通りからバス停へ向かいました。
どこからか子猫の鳴き声がする
天神山通りを歩き始めて間もなく、どこからか子猫の鳴き叫ぶ声が聞こえました。
声のする方を見てみると、道路を挟んで反対側の歩道で、小さな黒っぽい塊が通行人の男性を「にゃご!にゃご!」と叫びながら追いかけていました。
「あ、子猫だ!」
思わず声を上げた瞬間、会長はひらりと道路の防護柵を飛び越えたかと思うと、あっという間に道路を渡って子猫を抱き上げていました。


その日は朝から快晴で、日陰がほとんどない歩道に出ると、体感温度がぐんと上がるのを感じました。
実際に気温はどんどん上昇し、昼前に東京都心で30度を超える今年初の真夏日を記録する暑さとなった日でした。
一番近かった動物病院まで30分近く声をかけ続けながら汗だくで歩き、すぐにSNSで飼い主さんを探して、もし見つからなかった時のために、里親さん募集のための写真も撮りながら、なんとか命だけは助かってほしいと願うばかりでした。
ミルクをたくさん飲んですくすく育ってくれた
動物病院で診察してもらうとウイルス性の風邪だということでしたが、既に回復状態で目薬をさして拭いてもらうと目がちゃんと開きました。しかし動物病院では保護できないので、自宅に連れて帰りミルクをあげてくださいと言われました。
子猫は生後3週間くらいでまだ離乳していないと聞き、予想だにしていなかった出来事に混乱して慌てましたが、取り急ぎ予定はキャンセルして子猫用のミルクやトイレを買いに行き、帰ってミルクをあげるとなんとか飲んでくれました。
これで、なんとか命は助かる!と心からホッとしました。

喜んだのも束の間、子猫の飼い主探しと里親募集を継続し、引き続きSNSで呼びかけました。
初めはミルクも少ししか飲めませんでしたが、日に日に上手に飲めるようになり、保護から5日目には、目の状態もすっかり良くなり初めて離乳食も食べました。
家族としてお迎えする決意
一方、子猫の飼い主は見つからず、SNSで何人かの方にご指摘いただいたように、野猫ちゃんなのだろうと思われました。
多くの方に拡散やアドバイス、里親希望のDMも複数いただき、突然の状況でパニックになっていた私は、見ず知らずの方々の優しさと厚意に精神的に救われました。
里親さんを探していたのは、私が仕事以外で天気の良い日は公園に出かけることが多く、子猫の将来を考えてのことでした。しかし、日々お世話をしながら子猫を見守っている中で、あることを思い出し、最終的には自分で引き取って家族としてお迎えする決意をしました。

動物武術界の先生は猫
それは、会長が中国で教えを受けた卜文徳老師(中華武林百傑の一人で卜氏八卦掌の創始者)が語っていたという「動物武術界の先生は猫だ」という言葉です。
卜老師は、日頃から鶏や猫など身近な動物の動きを武術の観点から深く観察していたそうですが、「動物の武術界があれば猫は先生だ」と評していたそうです。会長がその理由を問うと、スピード・俊敏さにおいて最も優れているからだということだったそうです。
私が普及活動として取り組んでいる中国気功の華佗五禽戯は、虎・鹿・猿・熊・鳥(鶴)の動作を模範としているのですが、これらの動物は身近に観察することは到底できません。その点、猫は野生を残しつつも人間と共に生活できる数少ない動物です。
カンフーライフと猫
子猫は、中国の「中」と太極拳の「太」をとって「中太郎」と名付けました。普段は「ちゅーた」と呼んでいます。
実際に猫を育ててみると、可愛らしい遊びの動作の中にも慎重に忍び寄る歩法や眼法、俊敏な「狩り」の動作が垣間見えて驚かされます。卜老師が猫を讃えたのも頷けます。
一方で、猫は本来屋外で自由に活動する生き物なので、人間が室内に閉じ込めて育てるということに対しては「人間の都合で申し訳ない」という気持ちも確かにあります。しかし現実には、今や猫は屋外では安全に暮らすことができず、室内で猫生の大半を過ごさなければならないのは、八卦掌を学ぶ私たちが近年の気候変動の中で室内練習を主とせざるを得ない境遇と似ています。カンフーライフも猫も不自由さの中に人間らしさや猫らしさを求める同志なのだと思います。
中太は幸い大きな病気もせずに、生まれて半年を過ぎました。災害時に避難できるよう、ハーネスやスリングバッグの練習も嫌がらずにこなし、短時間なら吉祥寺のペット同伴OKのカフェにも出かけられるようになりました。

これまでは「中国功夫出公园」(中国功夫は公園にあり)のキャッチフレーズで、公園練習を強く推奨してきましたが、これからは、猫との暮らしを通じて室内環境の整え方や練習方法、健康維持について研究しながら、新しいカンフーライフの実践の形を模索していきたいと考えています。

