中国最古の医学書『黄帝内経』には日本独特の気候である「梅雨」の過ごし方は具体的に記述されていませんが、「長夏」という夏と秋の間の時期が梅雨に似ています。
「長夏」の特徴
長夏は梅雨と同じく湿度が高く蒸し暑い気候です。暑湿は人体の陽気を損ない、その性質は重く濁り粘滞します。
私が河南省に住んでいた頃は、夏の最も暑い時期は7月がピークで、8月になると朝晩は涼しくなり、午後にはほぼ毎日スコールに見舞われていました。雨量は日本の梅雨ほどではありませんでしたが、湿度の高さと湿気による冷えという点では体感的に似ていると感じました。
黄帝内経の≪素問・生気通天論≫には「湿により、頭が包まれたようになる」と記されています。この時期に感じる体の不調には、頭痛、疲労感、四肢の痛み、むくみや皮膚の痺れなどがあります。
水に触れたり雨に濡れたり、湿った場所に長く留まらないように、湿気との接触を避けるようにします。
体内に余分な水分が溜まると、湿気を嫌う「脾」の機能が低下し、食欲不振や消化吸収機能の低下を引き起こします。
梅雨の運動法
中医学では、長夏は土に属し、人体の五行の中で脾臓も土に属します。長夏の気候の特徴は湿気が多く、この「湿」は人体の脾臓と最も密接な関係があります。そのため、長夏は脾臓を丈夫にし、養い、治療する重要な時期なのです。
具体的には、水分代謝を高め、体から余分な湿気を取り除くことです。
中国伝統気功法

私のお勧めは、中国最古の気功法である華佗五禽戯の「熊戯(くまのぎ)」です。
熊は脾にあたり脾胃を鍛えます。良く食べ、たくましい体を持ち、慎重で力強い熊の動きを真似することで、脾胃の働きを助け、食物の消化吸収を促し、丈夫な体格をつくり、また睡眠・精神の安定を高めることができます。
食事は芳香性のあるものを
梅雨の蒸し暑さや湿気は脾臓の働きを低下させ、食欲不振を引き起こします。この時期には、ジャスミンやミントなどのハーブの香りで脾臓を目覚めさせることで、体内の余分な湿気を取り除くことができます。また、生姜やネギなどの体を内側から温める薬味を取り入れることで、湿気による体の冷えを予防できます。


自分で料理を作れない場合は、ベトナム料理など気候の似ている地域の料理を外食で楽しむのも良い選択です。
私の体質はスパイスがよく効くので、梅雨はベトナムフォー、気温が上がってきたらタイカレー、カラッとした真夏はインドカレーというように、季節に合わせて食事ををローテーションしながら梅雨から夏にかけての時期を乗り切っています。また、意外とヘルシーな中国の家常菜(家庭料理)も、梅雨の時期には頻繁に食べています。
雨を楽しむ過ごし方を
長夏は五行では「土」に属し、五志では「思」という感情に属します。思い悩みや考え過ぎは脾の働きを低下させてしまうため、穏やかな気持ちで過ごすことを心がけましょう。


また、黄帝内経『素問』に「五労(ごろう)所傷」という教えがありますが、その一つに久座傷肉があります。これは、長時間座りっぱなしで運動をしないと「肉」を痛めるという意味で、肉は「脾」の機能と深く関わっています。お気に入りの傘をさして梅雨ならではの景色を探しに出かけるなど、適度な気分転換を取り入れ、運動不足による体内の巡りの停滞を防ぎましょう。