このお言葉は、華佗五禽戯 第五十七代継承者である董文煥(とう ぶんかん)老師に頂いたものです。
華佗五禽戯とは
古代中国後漢の晩期に神医と呼ばれた名医・華佗によって創造され、約1800年の歴史があるといわれています。また現在に伝えられている中国気功や中国武術の鼻祖と呼ばれ、のちに発展した数多くの気功・武術の門派に、その思想と運動体系の影響を及ぼしました。
当時私は34歳で、中国武術留学の5年目でした。董文煥老師より「中国亳州華佗五禽戯健身養生館」日本支部の認証を受けるための試験の最後に、老師は私にこうおっしゃいました。
「いいかい、ずっと咲き続けなくてもいいのだよ、花は咲く時が訪れたら咲けばいい、そして枯れる時が訪れたら枯れたらいい、ずっと咲き続けている必要はないんだよ、わかったね」
御年90歳になられる老師が、34歳の私に伝えたかったこと。
当時の私には、その真意を全て理解できませんでしたが、董文煥老師のお心の温かさは伝わってきました。きっといつかその言葉が分かるようになりたい、そう強く願ったことが胸に残っています。
その3年後に董文煥老師はご逝去され、あれから14年が経ち私は48歳になりました。
若い時期は過ぎ去り、これから50代に向けて人生の集大成として中国伝統功夫の研究を深めたいと志を新たにした今、ふとこの言葉を思い出しました。
資料整理の作業中に過去の自分の写真や映像を見ると「ああ、あの頃は若かった、やりたかったこともたくさんあった、戻れるものなら戻りたい」という思いに駆られ、正直苦しくなることも少なくないのですが、ふと董文煥老師の言葉を思い出すと不思議に心が満たされます。
「ずっと咲き続けなくていい」
そうか、花はまず種が芽吹いて、そして成長して、誇らしく咲いたら潔く散る、そして次の世代に繋いでいくんだ、自分が枯れていくこともまた、必死に生きた証なんだ。
そう思うと、今までの人生がとても価値のあるものだと感じることができます。
どんな高名な武術家であっても、年月は平等に私たちの人生を未来へ運んで行きます。
「ずっと若くなくていい、ずっと絶頂でなくていい、ずっと旺盛でなくていい」
この言葉を私に与えてくださった董文煥老師の優しさと境地が、48歳の私の胸に轟いています。
また10年後にこのお言葉を思い返した時、きっともっと深い意味を理解できるように、それまで精進したいと思います。
決して止まることのない時間に対して、人はどのように生きていけばいいのかを教えてくださった、董文煥老師のお言葉の紹介でした。