中国における最も古い医学書である黄帝内経の素問に、「冬の過ごし方」について書かれています。ここでいう冬とは、立冬(11月7日頃)から立春まで(2月3日頃)の3か月です。
冬の3か月を「閉蔵」(へいぞう)という
万物が潜伏する冬は、水は凍り大地は裂けるほどに寒さが厳しいので、悪戯に陽気を消耗してはいけません。
夜は早く寝て、朝は太陽が昇るのを待って動き始めます。
あれこれと意思や感情を巡らせず、心の平和を維持して、満ち足りた気持ちで過ごします。
寒気を避け、体を温かく保ち、汗をかくような運動は避け、陽気が失われないようにします。
これが冬の養生の道であり、逆らえば「腎」を傷め、陽気は枯渇し、春になると手足の筋肉が衰える病気になります。
冬の練習方法
中国の黄帝内経の入門書には、民間人に向けて冷えや消耗を避けるだけでなく、大脳の働きや新陳代謝を低下させないために適度な運動も勧めています。
特に冬は四季の中で最も陰気が強い時期なので、中国武術の静功(内面を充実させる鍛錬法)を積むには絶好の条件があります。
北京の冬の公園では、しっかりと厚手のダウンコートを着た人たちが、ヒノキに向かって站樁功(たんとうこう・立禅)を行う姿をよく見かけます。ヒノキは心臓に良い効果があると言われているので、血管や血圧に不安がある人は、運動よりも静かな気功法のほうが冬の鍛錬には向いています。
また華佗五禽戯の「虎戯」は五行では水に属し、腎の働きを良くするので冬に鍛錬すると効果が高まります。
太極拳も主に腰を鍛えるので、華佗五禽戯の「虎戯」と同じ効果があります。
八卦掌は知名度は低いですが、走圏(そうけん)という円をひたすら歩く練習が最も長時間取り組める季節でもあります。外気に露出している顔と手の皮膚が寒さを感じ取り、走るのではなく「ゆっくり歩く」という動作が、全身の神経や筋肉、そして自律神経を活性化し、夏には気づきにくい経絡の滞りを自然に解消します。
流れ落ちるほどの汗をかいたり、血圧や心拍数が急上昇するような運動以外は、天気の良い日に防寒対策をして公園などで積極的に行った方が良いです。
食事は体質に合った温かくて滋養のあるもの
冬は体温維持のためにエネルギーを消耗するので、滋養のある食事を摂ることが必要です。
人にはそれぞれ生まれ持った体質がありますので、メディアの情報を鵜吞みにしたり、自己流の健康法に走らず、信頼できる専門家を探して、相談しながら自分の体質を知ることが大切なのですが、名医を探す時間や巡り合うチャンスには限界があるので、中国では比較的どんな人にも合っているのはチキンスープやボーンブロスだと言われています(アレルギーのある人は必ず主治医の指示を守る)部位や種類は体質に合わせてセレクトするといいと思います。
肉や魚を野菜と一緒に煮込んだ料理は日本人でもよく食べますが、冬でも新鮮な野菜や果物は適宜必要です。
日本では「中華料理は脂っこくて高カロリー」というイメージがありますが、現地では肉よりも野菜を多く食べますし、日本人よりも何倍も果物を食べます。
冬のうちから五月病予防を
中国には五月病はありません。新学期は9月から始まり、新年度は1月から始まるので、季節の変わり目が人生の大きな節目になることが少ないのです。
日本は節目が春に集中しています、冬の間にしっかりと養生をして、エネルギーを十分に蓄えた状態で桜咲く春に挑まないと、5月には燃え尽きて五月病になりやすくなります。
さらに梅雨を越えて厳しい酷暑を乗り越えなければならないので、冬の間にしっかり黄帝内経の教えを実践し、陽気を守り、陰気を養い、栄養を摂取しながら運動に取り組んで大脳や新陳代謝を鍛え、しなやかな心身で一年を元気に過ごせるように、中国の伝統の知恵を参考にしていただければと思います。