陳項(チェン シィアン)老師は、混元太極拳(正式名称:陳式心意混元太極拳)の創始者である馮志強(ひょう しきょう)老師の一番弟子と呼ばれていた老師です。
混元太極拳は養生を重視するので、私が北京市内にある馮志強老師の設立された『志強武館』に留学していた頃、勉強不足で不養生だった生活習慣を現地の先生や学生たちにこっぴどく注意されました。
色々な人たちに色々な養生法を教えてもらいましたが、その中でも陳項老師の健康法は何かを超越しているような他に類を見ない特別なものでした。
まず初めに陳項老師に注意されたのは、私の慢性睡眠不足でした。
「今夜から毎晩寝る前に、降気洗臓功を30分行いなさい、そうすれば眠れるだろう」
降気洗臓功というのは混元気功法で、動作自体は両腕を頭上まで持ち上げて、次に両足の下まで下ろすことを繰り返すだけなので比較的簡単です。
しかし、そのときの私は中国語の勉強に追われていたり、慣れない海外生活での要領の悪さから多忙を極めていたので、数日は試してみたものの、やっぱり眠れなかったので長続きしませんでした。
一向に元気にならない私を見て、陳項老師は「さては、さぼっているだろう。駄目じゃないか、毎晩30分降気洗臓功を行えば必ず眠れるようになるのに、なぜさぼるんだ」と非常にご不満な表情で注意してくださったのですが、私も不眠症歴10年以上のベテランだったので、「やってみたけど眠れないんです」と引き下がらずに正直に伝えました。
今にして思えば、雲の上のような存在の陳項老師に私のような一般学生がなんて失礼な、という態度なのですが、そこは陳項老師の太極拳に対する一切の妥協を挟まない姿勢や、私自身の性格から、誤魔化しや社交辞令がどうしても言えなかったのです。
私の訴えを聞いた陳項老師は「じゃあ、降気洗臓功を30分行った後に、ベッドの上で足の裏を拳で片方100回ずつ擦りなさい」と言って、わざわざ椅子に腰を下ろして靴を脱いで、具体的な按摩の方法を教えてくださいました。
その様子を見ていた黒竜江省出身の友人に、陳項老師の教えは貴重だから絶対にやらなきゃだめだよ、と言われたので、その日からは毎晩実践することにしました。
しかし、それでも眠れませんでした。
でも陳項老師は諦めません。
次に報告したときは、「それは深刻だ、絶対に眠れるようにならなければ太極拳の練習どころではない、じゃあ今夜から降気洗臓功を30分行った後に、ベッドの上で足の裏を拳で片方100回ずつ擦って、その後に腎兪(腰にあるツボ)を100回擦りなさい」と追加のアドバイスをくださいました。
こうなったら私も眠れるようになるまではと意地になっていたので、その夜に実践しました。
「降気洗臓功、30分……」(眠れない)
「ベッドの上で足の裏を拳で片方100回ずつ、計200回……」(眠れない)
「追加で腰のツボを10回、20回、30回、……」(腕が痛ーい! 腕がっ! つる! ってゆーかもう1時過ぎてるよ、こんなこと夜中にやってられないよ、もう寝る)
と言って、眠れました。
ひさしぶりに熟睡して翌朝すっきりして目覚めた私は、はたと「名医だ」と気づきました。