2005年8月下旬。先の陳式太極拳国際合宿が終了すると、主なメンバーたちは河南省で二年に一度開催される通称「年会」と呼ばれる、太極拳愛好者なら誰もが一度は出場してみたいと憧れる大きな太極拳大会に参加するために、開催地である河南省焦作市温県を目指しました。
私も太極拳館の事務員の方のご厚意により一緒に連れて行っていただくことになり、太極拳の聖地で行われた盛大な開幕セレモニーを楽しむことができました。テレビ中継もされたこの大会では、競技だけでなく、太極拳の文化や哲学に関する多彩な展示も紹介されていました。
聞いたことも見たこともないような太極拳の祭典に心身ともに魅了された私は、次々と展開される太極思想の表現に触れ、河南省を訪れてまだ2か月も経っていないのに、「いつか自分も参加したい!」という大きな目標を抱いたのでした。
ただ、まだ陳式太極拳の套路もまともに覚えていない状態で、さまざまな流派の太極拳の演武を目の当たりにしたことで脳が飽和状態になり、とても全てを記憶できそうになかったので、感動が冷めやらぬまま大会終了を待たずに、9月1日から始まる河南中医学院での授業に備えるため、鄭州市の自宅へ帰りました。

そして、いよいよ9月1日の始業式を迎え、専攻していた初級中国語、按摩、そして経絡学の授業が始まりました。
一回目の初級中国語科の授業で、担任の先生から「きみは!一体どんな方法で中国語を勉強したんだい?独学で、しかも短期間でここまで発音と単語数をマスターした外国人には会ったことがない」と言われました。私は面食らって(そんなバカな)と思ったのですが、自分で思っていたよりも速いペースで中国語を習得していたようで、拍子抜けすると同時に、「あなたの中国語力で初級中国語科を受講するのは、時間と学費の無駄になるだろう」と先生に言われ、がっかりしました。
しかし、中級中国語科は授業時間が非常に多く、太極拳を学ぶ時間をとても捻出できそうになかったので、一旦諦めて初級中国語科に通うことにしました。
そして経絡学科については、担任の先生の河南省訛りが強くて全く理解できず、困り果てました。教科書や黒板の文字からある程度内容は把握できましたが、体に関わることなので「ある程度」の理解では不十分です。誤って覚えてしまうと大変危険です。結局、私は経絡学科の授業をわずか2回受けただけで受講を中止することにしました。
残りは按摩科です。中国按摩の知識は北京に滞在していた頃、混元太極拳館に隣接する按摩学校で頻繁に授業を見学していたため、ある程度の見当がついていました。
しかし、按摩科の先生は私に針灸科に移動するように勧めます。”もやし”のような私の体つきを見て「按摩は力が必要だから女の子には大変だよ、針なら力はいらないから」と言うのです。でも針はどうも私の性に合わないので、私は断固として按摩科の受講を押し通しました。
『太極拳は自己按摩である』という拳論を深く研究したいという強い希望が当初からありました。
こうして、週に数回の初級中国語科と按摩科を専攻した私は、残り全ての時間を『陳家溝太極拳館』で太極拳の練習に費やすか、安いボロアパートで独学の中国語学習に費やす日々をスタートさせたのです。
初出 2010年11月
つづく