2008年2月上旬、河南省に渡って3度目となる旧正月を迎える間近、私は1年目と2年目の失敗を思い出していました。1年目は、行くべきでなかった数々の“招待”に出向いてしまい、気まずいムードで年を越してしまいました。2年目は、全ての招待を断って自宅に閉じこもっていたら、気持ちが沈んで動けなくなってしまいました。今度こそ年越しをうまく過ごそうと、3年目の計画をしっかりと練った私は、旧正月の期間は、八卦掌の基本功の練習と、麻林城老師からお預かりしていた八卦掌の資料の翻訳に取り組むことにしました。
友人の小朱が何度も私を訪ねてきて、「春節はウチにくればいいのに、一人で年越しなんて寂しすぎるよ」と誘ってくれたのですが、クリスマスも誕生日もバレンタインも泥のような練功生活を送ってきた私にとって、もはや旧正月など“ただの長期休暇”でしかありませんでした。私は何とか小朱を説得して、難解極まりない八卦掌の資料に出てくる四文字熟語と、旧正月のあいだ格闘していました。
旧正月が明けると、里帰りしていた小朱が、遠距離恋愛中の恋人を連れて河南省に戻ってきました。小朱は実家のお土産だと言って『玉の腕輪』を私にくれました。
「小美!これは『玉』という中国特産の石で作った伝統的なアクセサリーだよ。長い間つけていると、その人の生命力を受けて色が変わってくるんだよ。そして玉がまた、人を養ってくれるんだよ」
珍しそうにその玉の腕輪を眺めていると、小朱は「ねぇ小美、顔がボヤけてるよ。いっつも一人で練功ばかりしていると、だんだん顔がハニワみたいになってくるよ!」と言って、私の手を引っ張って外に連れ出してくれました。
私はウィンドウショッピングが好きではなかったので、小朱に「いつも一人な訳じゃないよ、ちゃんと友達もいるよ」と言って、当時気に入っていた練功場所へ案内することにしました。そこは比較的高級な住宅地で、可愛いワンちゃんを飼っている住人がたくさんいたので、いつもどこかのお宅のワンちゃんに出会うことができました。その日は、私がいつも巻いているマフラーの毛にそっくりなワンちゃんがいました。この仔はとても人懐っこくて、一度じゃれ始めたら遊び疲れるまでかまってくれるので、私は遭遇するたびに大喜びしていました。河南省にいるあいだは、いつも何処かしらに顔なじみのワンちゃんネコちゃんがいて、その仔たちに随分心を和ませて貰いました。
小朱は体が弱く潔癖症だったので、見知らぬ子犬には「狂犬病になったら怖いから触らない!」と言って逃げ回っていましたが、小朱の恋人が面白がって、私とワンコを携帯電話で撮影してくれました。
それから3人で食事に行くと、「八卦掌ってどんな武術?僕、見てみたいな!」と小朱の恋人にお願いされたので、「本当は龍みたいな動きなんだけど、私はまだ基本功しか習ってないよ」と言うと、それでも良いから見たいと言うので、食堂を出ると、また3人で練功場所に戻りました。
私は小朱の恋人(名前を何度も聞いたのですが、ついに憶えられませんでした)に、八卦掌の練功を行う前の準備運動を説明しました。
「まず肩を合わせる!」(んぎゅ〜)←着ぶくれしていると苦しい
【写真①:肩を合わせる】
「次に肩を開く!」(びりびり〜)←腕の神経の音
【写真②:肩を開く】
「それから、つま先を入れる扣步(コウ・ブー)!」(きゅ〜)←フラフラする
【写真③:扣步】
「さらに摆步(バイ・ブー)!」(おりゃ〜)←意外と腹筋と背筋を使う
【写真④:摆步】
運動不足だった小朱の恋人は「フーフー」と息を上げて、「こんなに全身を捻るの?なんだか特殊な武術だね、僕がイメージしてたのと随分ちがうよ」と言い、ヨガのインストラクターの資格を持っていた小朱は「楽しい!楽しい!」と言って喜んでいました。