2006年8月。
韓国の友人たち、ジュアン君とヘソ君が帰国する前夜。私たちは、最後の食事を共にしました。
2年に一度開かれる、さらに大きな太極拳大会、通称「年会」。次はその大会に出場したいという目標を、私は二人に語りました。
私たちは初めてビールを酌み交わしましたが、翌日の別れの話はしませんでした。たくさん笑って、大会の成績を喜んで、将来の希望を語り合いました。
「いつかきっと行くよ、ジュアンと一緒に、日本へ。」
ヘソ君が、帰り際にそう呟いていました。
翌朝、二人は太極拳館に帰国の挨拶に向かい、私も手続きの通訳係として同行しました。
全ての用事を終えると、私たちは鄭州空港へ向かうタクシーを拾うために、大通りに出ました。
ジュアン君は、顔をグシャグシャにして泣いていました。ヘソ君は、また明日すぐ会えるような優しい顔で、ただ笑っていました。
私は胸が張り裂けそうになりましたが、いつもの様に元気なふりをしました。
「ほらほら2人とも、早くタクシーに乗らないと飛行機に間に合わなくなるよ!乗って乗って!」
ヘソ君は、ほとんど嗚咽しそうなほど泣きじゃくっているジュアン君の肩を抱いて、タクシーに乗りました。そして、少し眼を潤ませながら私に言いました。
「頑張れ! みーちゃん、負けるな! 韓国から応援してるよ!」
手を振って、タクシーはそのまま行ってしまいました。
私は、泣きませんでした。
明日からまた練習をしなければなりません。そのために、ご飯を食べなければなりません。だから行きつけの飲食店に行きました。
お昼ご飯を注文して、一人で全部食べました。
食べながら、気がついたら泣いていました。店員さんに気づかれないように、下を向いて、ボタボタご飯に涙を落としながら、全部食べました。
向かい側にいつも座っていた、ジュアン君も、ヘソ君も、もう居ません。
夏は終わったのです。
でも、私の修行はまだ終わっていません。私には、まだまだ中国で学ばなければならないものが、たくさん、たくさん、あったのです。
初出 2011年3月