私は、バッグにキャットフードを常備させていました。中国の残飯は香辛料が多く含まれているので、それらを食べた野良猫はお腹を壊してしまうのです。私は何度も公園や街角で、極限の空腹状態から苦しそうに、唐辛子が沢山入った残飯を食べる猫を見てきました。その姿があまりに痛ましかったのです。
その仔は、ある日の夕方、私の住んでいたアパートの一階の住人が飼っていたブルドッグに吼えられ、私の胸に飛び込んで来ました。私が抱き上げると、その仔の下半身は汚物で湿っていました。ひどく衰弱していて、私は食あたりではないかと思いました。
(このまま動物病院に連れて行っても、獣医さんに診てもらえないかもしれない)
そう思った私は、その仔を家に連れて帰り、温かいお湯で下半身を拭いて、一番新しいバスタオルで小さなベッドを作ってあげると、仔猫用のキャットフードを買いに走りました。その仔は黄色い小柄な体をしていて、私が家に戻った時には、安心したようにバスタオルの中で眠っていました。私が指でキャットフードを口元に運ぶと、少しだけ口を開けてくれたので、そっと口の中に入れてあげると、一生懸命に呑みこんでくれました。
私はきっと助かると信じていたのです。すでに夜の8時を過ぎていたので、翌朝動物病院に連れて行って点滴を打ってもらえば、回復すると思っていたのです。
しかし、明け方その仔の姿を見た私は、自分を殴りつけたくなりました。その仔の背骨は硬く反りはじめていて、口の中は氷のように冷たくなっていました。
(手遅れになってしまった、私の甘い考えでこの仔を死なせてしまう)
私は半狂乱のようになり、その仔をバスタオルごと抱くと、タクシーに乗って動物病院に行きました。タクシーの中で何度も何度も「生きて!死なないで!」と話しかけました。動物病院の受付に着いて「お願いです!すぐに手当てをしてあげてください!私が悪いんです、昨日はまだ元気があったんです!」と叫ぶと、獣医さんが出てきて下さり、その仔の容態を見て、私に「ごめんね、この仔はもう手遅れだ、体温が無くなっている、もう命が無いんだよ」と言いました。
私は「だってまだ呼吸があります、生きているんです!助けてください、お願いします、お願いします!」と言って泣きじゃくりました。
「点滴、点滴を打ってください、私がお腹を壊して衰弱した時は、いつも病院の先生は点滴を打ってくれます、そうすれば回復します、お願いです、手当てをしてください!」
獣医さんと動物病院のスタッフの方々は、「僕たちは、この仔がいま楽になるように麻酔薬を打って安楽死させてあげることしかできないんだ。君が望むなら、僕たちは最善の方法でこの仔を楽にしてあげたい」と言ってくれました。
その仔の死を知った私は、それから1時間も病院の受付で大声で泣き続けました。病院の人たちは誰一人、私を追い出そうとはしませんでした。
「对不起、对不起、是我不好(ドゥイブチー、ドゥイブチー、シー・ウォー・ブーハオ/ごめんね、ごめんね、私が悪かった)」
その言葉しか出てきませんでした。最後の力を振り絞って私の胸に飛び込んで来てくれたのに、助けてあげられなかった。そのことばかり考えていました。獣医さんがその仔を連れて病室の奥に入っていった後も、私は泣き続けました。その仔の柔らかい毛の感触が悲しくて悲しくて、もう一度温かかったその仔の体を抱きたくて、大声で泣きました。
泣く力が尽きて放心状態になると、隣におばさんが座っていて、私の背を撫でてくれていました。「大丈夫?お家まで車で送ってあげるよ」と言って、おばさんは私をアパートまで送ってくれました。心配だからと言って私の携帯電話の番号を聞き、やはり家に帰っても泣き続けていた私に、電話をしてくれました。
「大丈夫です、ありがとう」
私は、おばさんにそう答えました。