REPORTAGE / 2004–2010

横山春光の中国武術留学記

夜の人民公園

卜文徳老師のもとで

2006年2月上旬。卜文徳老師のご自宅へ拝年に伺った翌日、私はひどい二日酔いで、自宅のベッドに横になっていました。

前日の円卓のことが頭をよぎりましたが、それでも春節の行事がどうにか過ぎ去ったと思うと、少しホッとしました。

安心すると同時に空腹を感じましたが、お正月なので商店はどこも閉まっています。年末に買っておいた食材も、すでに底をついていました。

「あ~、頭が痛いよ~、お腹が空いたよ~、気持ち悪いよ~、う~」

と、ひとしきり悶絶した後、困っていても状況は改善しないので、水とキッチンの戸棚の奥にあったトウモロコシ粉で作ったお粥を食べて、商店があくまでの2日間を過ごしました。

なんとか体調が戻ってからも、太極拳館の開館まではまだ1週間以上あり、私にはすることがありません。卜文徳老師からも、年明けにいつから鍛錬を始めるのか連絡がありません。

(本来なら、今こそ自主練習に打ち込むときなんだろうな)

しかし、卜老師のお宅でのことが尾を引き、どうしても元気が出ません。あまりにも1日が長く感じられ、日が落ちてからは精神的に参ってしまいそうになったので、無理やり気合を入れてジャージに着替え、鄭州市にある大きな公園の一つ『人民公園』へ行って、自主練習をすることにしました。

中国式の屋根を備えた建物と、その入口前の広場
河南省鄭州市の中心部にある人民公園(早朝の風景)

暗くなった公園は不気味でした。人影のない園内で練習するのは不審者が怖く、公園の入り口にある広い場所で無理やり練習しようとしました。けれど、どれだけ動いても少しも気分は晴れず、体も温まりません。頑張って公園まで来たのに、楽しそうに園内を散歩する家族連れや若いカップルの姿を見て、かえって気持ちは沈んでいきました。

私は自主練習を諦めて、自宅へ帰ることにしたのですが、歩いて帰るその道のりさえ、ひどくしんどいことに気がつきました。

一歩踏み出すたびに、心がズキンと痛みます。

(毎日練習していた時はあんなに元気だったのに、たった数日で、どうしてこんなふうになってしまったんだろう…)

普段はあまり言葉を交わさない太極拳館の学生たちに、早く会いたいと思いました。

しゃべらなくても、友達になれなくても、同じ時間に一緒に太極拳を練習できるだけで、どれほど幸せだったのかに気がつきました。

初出 2011年2月

 つづく